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とある魔術の禁書目録 二次創作 34

行間

 土御門は全ての爆弾の設置を終え、今は所長室にいた。
 第十階層、地下に造られたアーネンエルベ超人進化研究所の最も奥深く、最下層に位置する研究所最高責任者専用のフロアにある。所長室の他に、膨大な量の書物やディスクが収められた資料庫もあったが、中には寝室があるなど、所長は主にここで生活しているらしい。
 予想はしていたが、やはり既に無人だ。
 壁に並ぶ木製の本棚に歩み寄り一冊のファイルを取り出して背表紙を見てみると、そこには年代が書かれていた。

 1938

 パラパラとめくっただけでその内容はわざわざ文字を読まなくても理解できる。
 注釈付きの解剖された脳の写真。薬物の過剰投与によって肉体が一部欠落した子供の写真。戦前にナチスが行っていた実験の記録のようだ。
 最後のページまで辿り着くとそれを床へ放り出し、さらに別のファイルに手を掛ける。背表紙に書かれた数字は「1972」とあった。
 こちらにも多くの写真が載せられているが、歯や爪が抜け落ちているなど、先程と比べれば、「五体満足」という点において"健康的"と言えるだろう。 
 途中で指に力を込めて、一定のペースでめくられていたページを止めた。土御門の視線は一枚の写真に注がれている。
 10歳程度の少年がまるで身体の内側から爆発したかのように血を噴き出して倒れている写真。初めて見る写真だが、見覚えがある症状だ。その痛みさえも。
 見終わると、土御門は興味を失くしたようにファイルを適当に放った。載せられていた写真がどれほどグロテスクでも大して驚くにはあたらない。学園都市でも似たようなことは影でいくらでも行われている。むしろ学園都市の方がずっと上を行っているかもしれない。

 (研究のレベルに差はあっても研究者が考えることってのはどいつもこいつも似たりよったりか。発想の乏しさが嘆かわしいもんだな)

 本棚から離れ、次は豪華な造りの机に向かった。パソコンのモニターはあるのに本体が無い。引き出しを開けてみると中身はほとんど空だった。
 机から目を離して数々の本棚に目を向ければ所々抜き取られているのが分かる。研究者としての執念だろう。研究所を襲撃され、せっかくの努力を奪われるか消される前に最新の研究記録だけを持って逃げたのだ。当然これも予想の内だが。
 問題はどこから逃げたか、だ。地上へ上って逃げることは出来ない。学園都市からはるばるやってきた「ライフル」が武装して待ち構えている。そんな所から堂々と逃げるなど狂気の沙汰だ。
 他のいくつかのフロアに造られた逃走通路は以前から判明しており、その行き先にも「ライフル」が待機済み。しかしこの所長専用フロアには逃走通路に関する一切の記録が存在しない。研究所の見取り図、建設する際の行程表、調べられる物全てに目を通したが何も記録が無かったのだ。もしかしたらそもそも通路自体が無いのかもしれない。
 しかし場所が場所である。アーネンエルベ創設から現在に至るまでの研究の資料が集約する最も重要なフロアだ。いかに痕跡が無くとも逃走通路が無いというのは不自然過ぎる。
 襲撃の際に必要な資料を持ち素早く逃げることが可能なこの部屋のどこかに必ず通路は存在するはずだ。
 もしかしたら、とても考えられないが、もしかしたら本当に通路は無いのかもしれない。だがそうなれば他の既に知られている通路から逃げることになり結局「ライフル」によって御用となる。この所長室で無駄にブラブラしていたところで大した問題ではない。
 ただ、隠された通路を見つけ出そうとすれば、当然そう簡単には見付けられない。何せ記録まで抹消する程の周到ぶりだ。おそらく所長のみ、あるいは所長とその側近のみしか知らないだろう。もし襲撃される恐れのある施設にいて、外敵から逃げる必要に迫られる事態になれば記録が存在せず、到達点が知られていない通路の方を使いたがる筈だ。それを施設の誰もが知っていれば大挙として逃走者が押し寄せることになりかねない。
 その為にも、入る者が限られる所長室というのは都合が良い。

 映画などでは本棚にある特定の本を動かすと秘密の出入り口が現れる、という仕掛けをよく見る。この部屋にも数多くの本やファイルがある。その中から正しいものを見つけ出すのは骨だろう。

 (空き巣よろしくしらみ潰しに本棚を引っかき回すか)

 土御門は机に腰掛けると、先程まで背後にあった壁が視界を埋める。人が二人並んだ程度の幅だけ本棚が無かった。その壁の中央には、

 「なるほどな」

 土御門は風水を専門とするプロの魔術師だ。今は能力開発を受けてしまったせいで満足に魔術を扱うことは出来ないが、確かな知識と経験がある。例えば物の配置や方向の重要性。だからこそ感覚で分かる。

 「43度ってとこか」

 ナチスが掲げたシンボル、鉤十字は45度の角度と定められている。しかし目の前の壁に飾られている、鈍く輝く銅でできた鉤十字のオーナメントは微妙に傾けた状態で落ち着いているのだ。
 机から腰を離し、鉤十字の腕を掴むと、土御門は指に力を込めた。
 カチッという音とともに正しい角度になると、続いて聞こえてきた重い音を唸らせながら右隣の本棚が壁の向こうへと引っ込み始めた。

 「本を動かすのに比べればユニークだが、本棚の向こうに出口があるってのはありがちだぜい。やっぱり発想が貧弱だにゃー?」

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第六章終わって行間。
というわけで次回からは第七章で御座います。
ただ次章に入る前にチョコチョコ直したいところがありますのでまた暫く待って頂くことになります。
あしからず。
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